第2章 壊れる音【土方裏夢】
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「ん、ああ。目が覚めたらお前が居なくて…ちょっと慌てただけだ」
全然ちょっとではなかったと思いながら、は座り込んだ土方に声をかけた。
「あの……入りますか?」
「は?」
「いや、お風呂に」
今度は土方が驚く番だった。思いがけない誘いに、二三度瞬きを繰り返す。
「いいのか?」
「はあ……どうぞ」
キョトンとした顔で頷いたに、土方は戸惑いながらも「わかった」と答えて脱衣所に戻った。
(シャンプーは家でゆっくりしよう)
入れ替わりに出ようと立ち上がった所で土方が浴室に入ってくる。鍛えられた土方の体が視界に入り、は慌てて顔をそむけた。自分も裸だったと思い至り、手で隠す。
「す、すみません。あの、どうぞ」
いそいそと出て行こうとすると、肩を掴まれた。
「どこに行くつもりだ」
「え、いや、私は出ようかと…」
「何でだ?」
「だって、ふ…トシさんが入るんですよね?」
不安げに眉を顰めたに、土方は漸く納得する。風呂に誘うなんてずいぶん積極的だと思ったが、そのつもりがなかっただけのようだ。
「一緒に入るぞ」
「ぅえっ、えっ、あっ?!」
掴まれた肩を引かれ、よろけたは土方に凭れかかる。
「わっ、す、すみませ…!」
離れようとしたは土方の顔を見上げてしまい、言葉を失った。
(何でそんな、泣きそうな――)
目が離せなくなり、は言葉を探して眉を寄せる。それについて尋ねると、踏み込んではいけない領域に入ってしまうような気がした。
結局悩んで出てきたのは、当たり障りのない言葉だった。
「あの…風邪、ひいちゃいますよ」
「あ、…そうだな」
土方はを一度ぎゅっと抱きしめると、その手を握って浴槽に誘う。はただ抵抗もできずに、湯船に身を沈めた。
広い浴槽は、二人で入ってもまだ余裕がある。それなのに、は土方の腕の中におさまっていた。
(せっかく広いお風呂なのに)
少しでも見られる面積を減らそうと、は膝を抱えて座っている。そのせいで風呂の半分が空いている状態だ。
どうせなら、思い切り手足を伸ばしてつかった方が気持ち良いのにと溜息をつく。
「どうかしたか?」
「いっ、いえ、何でも」