第2章 壊れる音【土方裏夢】
時計を確認し、そろそろかと寝室に向かう。
の規則正しい寝息に、頬が緩んだ。
「、そろそろ目ぇ覚ませ」
物語の一幕のように、眠るに口づける。
閉じられた瞼が僅かに震え、吐息が漏れた。
「んっ……あ」
ゆるゆると、重い瞼が開かれる。
焦点の合わない目が、ぼんやりと土方を見つめた。
「よォ、気分はどうだ?」
「え、あ……」
口は開くが、舌が痺れたように動かず、言葉にならない。もどかしさに、は眉を顰める。
(頭、痛い。何でだろ、腕も、体も重い)
体を起こしたいのに、鉛のように重く、指先一つもままならなかった。何となく、高熱で寝込んでいる時の感覚に近いと思うが、決定的に何かが違う。
考えるのも億劫なほど、体が怠い。
そのせいで、反応が遅れた。
「んっ――」
唇が塞がれる。
見開いたままの目に映るのは、が苦手な土方の整った顔。
状況が理解できないせいか、「イケメンは近距離で見てもイケメンなんだな」と、わけのわからないことを思ってしまった。
開いた唇に舌が差し込まれ、は現実に引き戻されて慌てて抵抗しようとして、失敗する。
(んっ、体が動かない。それに……)
頭の奥が痺れるような感覚に、は背筋がぞくりと震えた。
歯列をなぞり、口内を犯しつくすようなくちづけに混乱する。
(いやだ。気持ち悪い。気持ち悪いのに、気持ちがいい)
相反する感情に、の目に涙が滲んだ。
「ん……」
くちゅりと音を立てて唇が離れ、の口の端から唾液が溢れる。
土方は指でそれを掬うと、そのままの口に指を突っ込んだ。
「全部飲めるな?」
それが遠回しな脅迫だと気づいたは、黙ってごくりと喉を鳴らす。
(こわい。いやだ。きもちわるい)
逃げ出したいのに、指先一つ動かない。
状況にが戸惑っているのを感じて、土方は薄く笑い、そっとその頬を撫でた。
「怯えんなよ。誘ってきたのはお前だろ?」
「え……」
「今日の事なのに、もう忘れたのか。お前、寝る前に俺に告白してきただろ。ずっと好きだったって」
土方の言葉が理解できず、は眉を顰める。
(誰が、誰を、好き?)
ずきりと頭が痛んで、思考を阻んだ。