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心憂し【銀魂裏夢】

第2章 壊れる音【土方裏夢】


眠ってしまったの頬を撫でながら、土方は独り言ちる。

「これでもう、お前は俺のものだ」

閉じられた唇に指をあてると、しっとりと温かく、その感触は土方を欲情させるには十分だった。
の顎を掴み、ゆっくりと唇を落とす。
二度、三度と繰り返していると、先ほどの仲居がやって来た。
入室の許可を出し、入ってきた仲居に声をかける。

「連れが寝ちまったから、ここは下げてくれ。ああ、起きたらこいつが残念がるだろうから、水菓子はそのままで構わねぇ」
「かしこまりました。水菓子は覆いをしてお部屋の冷蔵庫にお入れ致します。お持ちしたお酒はいかがなさいますか」
「酒も、置いててくれ」

土方の指示に、仲居はてきぱきと用事をこなす。その間に土方はを抱き上げると、寝室に連れて行き布団の上に寝かせた。
このままでは寝苦しいだろうと、帯を解いて着物をはだけさせる。

「まだだ」

逸る気持ちをおさえ、ぐっすりと眠るの頬を撫でた。指先につく化粧の気持ち悪さに顔を顰め、ふとがいつも持ち歩いていた物を思い出し鞄を探る。

「多分これか?」

パッケージには「メイク落としシート」とあり、引き出したそれでの顔を拭った。

「うわ……すげぇな」

白いシートがべっとりと汚れ、土方は嫌悪感を露わにした。化粧自体に特別な何かを感じる事は無いが、がまるで性を売り物にする女性のように装う事が気持ち悪くて仕方がない。
化粧を落としきると、は随分と幼い印象になった。白い肌も、ぷっくりとした唇も、何もかもが愛おしくて、土方は何度もを撫で擦る。

「なあ、お前は俺を軽蔑するか?」

返る事のない問いに、自嘲した。
こんな事をして、好かれるはずもないのに。
に布団をかけ、寝室を出る。すっかり片付いた居間で煙草に火をつけた。
が目を覚ますまで暫く時間がある。
仕込んだ薬は遅効性だが、その分長く効果がある。
一時的な眠気と、体の痺れ。そして僅かな――
ふうっと煙を吐き出すと、ほんの少しだけ冷静になれる気がした。口の中に残る苦みは煙草のせいだと、自分に言い聞かせる。
後悔なんてしていない。
この先も、後悔なんてする事は無い。
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