第2章 壊れる音【土方裏夢】
「用意する事が有ったなら、仰って下さったら良かったのに」
「お前の手を煩わす程の用事じゃねぇよ」
一体何だったのかと首を傾げていると、チャイムが鳴り、は慌てて部屋の入り口へ向かう。
その後ろ姿をちらと確認すると、土方はの茶に何かを流し込んだ。
無味無臭のそれは、あっという間に溶けて消える。
これでもう、後戻りは出来ない。
何も知らないは、受け取ったマヨネーズを手に戻ると、土方にそれを渡した。
「お待たせしました。はい、どうぞ」
「悪ぃ」
「いえいえ。じゃあ、冷めない内に頂きましょう」
「いただきます」と手を合わせて、は早速食事を始める。
にこにこしながら食べ進めるに、土方は知らず自分の頰が緩む。
「随分うまそうに喰うな」
「だって、すっごく美味しいですよ。旬の食材もたっぷりですし、お出汁の味もちゃんとしますし……二度と食べられないかもしれないので、しっかり味合わないと」
いつもより饒舌なに、土方は少しだけ驚いた。強張った表情に、丁寧過ぎる言葉遣いがの常で、こんな風に和やかに過ごせるなんて思ってもいなかった。
土方が秘かに望んでいた時間が、穏やかに過ぎていく。
「あの、どうかしましたか?」
「いや……何でもない」
土方の答えを不思議がりながらも、は料理を口に運ぶ。
この時、深く追及していれば、何かが変わったのかもしれない。けれど、は土方に遠慮があったし、そもそも少し苦手だった。
彼に捕まると、逃れられないような気がする。
(まあ、わざわざ私を捕まえるなんて、叱る時くらいだろうけど。あ、これ美味しい)
仕事も順調に進み、美味しい食事にも有り付けては満足していた。
苦手な上司と二人きりという緊張感を、ほんの一瞬忘れてしまうほどに。
(どれを食べても美味しいなー。そっか、これならゆず味噌和えにすればいいのか。勉強になるなぁ)
食べることに集中するあまり、土方の事をすっかり失念していた。
「なあ、」
「ん、え、はい?」
「お前、真選組の誰だかと付き合ってるってのは本当か?」
「……は?」
驚きすぎて、は箸を落としかける。
「えっ、何でそんな話に?」