第2章 壊れる音【土方裏夢】
扉を開けた土方の驚いた表情に、は少し困った顔で「お待たせしました」と笑う。
部屋の中に迎え入れた土方は、改めての姿を頭から爪先まで確認して感嘆の溜息をついた。
「まるで別人だな」
「そう思って頂けたのなら成功です」
「女は化けるって言うが……」
「元が地味なので、化粧映えするんですよ。あ、標的の写真はこちらに」
「ああ、こっちも上々だ。奴らの計画と実行日はわかったから、後は時期を待つだけだ」
土方の話を聞いて、は漸く緊張を解く。
安心しきったその表情に、土方は思わず苦笑した。警戒心の欠片も感じられない。
もう、逃げられないのに。
「良くやったな。じゃあ、飯にするか」
「はい。あ、え、もしかして」
「ここに運んで貰うよう頼んでる」
の表情がぱあっと輝き、期待に満ちた目で土方を見上げた。
「いいんですか?」
「飯食うだけでそんなに喜ぶか?」
「だってここの料亭、普通に予約したら三ヶ月待ちの超人気店ですよ!」
「そうなのか」
興味の無さそうな土方に、は驚くが、そう言えばこの上司はどんな料理もマヨネーズをかける独特の味覚の持ち主だったと思い出す。
「昨日もテレビで紹介されていましたし、きっと美味しいんだと思います」
「ふうん。そろそろ来るだろ、お前は座って待ってろ」
「はい。あの、副長は?」
「トシ」
「は?」
「呼び方、また忘れてるぞ」
くい、と顎を持ち上げられ、必然的に土方と見つめ合う形になる。
「え、いや、あの」
「まだ任務中だ」
冷たい目線と低い声に、はごくりと喉を鳴らした。何故か、嫌な予感がする。
今なら間に合う、逃げるなら今しか無い。
「ふ、副長、手を……」
どうにか声を絞り出し訴えるが、キツく細められた土方の目は怒りを孕んでいて、は唇を震わせた。
どうしたら良いのかと躊躇っていると、土方の手が離れ、堪えるような笑い声が聞こえてくる。
「お前、マジに受け取りすぎだ」
「なっ、揶揄ったんですか!?」
「すぐに忘れるお前が悪い。少なくとも、ここを出るまでは徹底しろ」
尖らせた唇をぎゅっと抓まれ、は不満げに土方を軽く睨めつけるが、ふっと笑って手を離された。
「煙草吸ってくる」