第2章 壊れる音【土方裏夢】
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土方に連れられて上層階の個室にやって来たは、落ち着きなく視線をさまよわせる。まだ、今日の任務について指示が与えられていないこともあったが、それ以上に土方が醸し出す雰囲気がいつもと違っていて、何故だかそれが不安だった。
「、取り合えず座れ。今日の計画について説明しておく」
「あっ、はい。お願いします」
促され、が向かいに腰かけると、土方は袂から取り出した物を机の上に転がす。
「失礼します。小型の盗聴器ですか……」
「この後、隣の個室で攘夷浪士どもの密会が行われる。こんな高級料亭の密室で会合しようなんて連中だ、バックにそれなりの連中がついてると考えて間違いねぇ」
「そうですね。出来れば会合の盗聴と、写真も撮れるといいのですが」
「オマエなら、どうする?」
「私ですか?」
尋ねられ、はしばらく考え込む。
変装の可能性を考えて見た目はいつもよりも派手にしているし、持ち物や髪形も変装しやすいように考えていた。
「彼らが部屋に入るとほぼ同じくして、部屋を間違えたと偽って中に入ることは可能だと思います。その際に写真と盗聴器の設置は出来るかと。後は目立つようにここを出て、ばれないように戻ってくれば……」
「成程な。やれる自信はあるか?」
「はい。お任せください」
頷いたの表情は、すっかりいつもの様子に戻っていて、土方は満足そうに口元を歪める。
もう、はこの状況を疑わない。
それどころか、土方の想定通りに話が進みそうな雰囲気だ。
「副長?」
「…何べん言ったらわかるんだ?」
「え、あ、でも、ここなら誰かに聞かれる事は無いのでは」
「徹底してないとボロがでるぞ」
「うっ」
痛いところを突かれ、は顔を引きつらせる。
ただでさえ、慣れない状況に戸惑っているのだ。咄嗟の時にぼろを出さない自信はない。
「わかりました。以後、気を付けます」
「一回練習しておけ」
「え」
「名前で呼んでみろ。」
先んじて名前を呼ばれてしまい、は耳まで赤くして硬直した。