第10章 雨のち嵐
心臓が二つあるみたいに、
一つは幻太郎にときめいて、一つは元彼からまた連絡があるかもしれないと焦りでドキドキしている。
お願いやから。早く終わって。もう、放っておいて。
そう思うのに、
返事がなくて耐えられなくなったのか、
電話が鳴り響く。
片付いた家に、ひどく軽快に響く某SNSの着信音は、
今の私にはトラウマを思い起こさせるのに充分だった。
でも、このまま放っておいても、何度も電話がかかってくるのは明白だ。ブロックすればいいとも思ったが、まだこの土地にいるかもしれないのに、
動向を知らずばったり会うなんていう地獄はみたくない。
意を決してスマホに手を伸ばすと、幻太郎が
「大丈夫ですよ。」とスマホを手に取り、通話ボタンを押した。
「もしもし?」
〈あ?誰やねんお前。〉
「メッセージにも書いてあった、彼女の恋人です。」
〈はぁ?どうせ、そういう設定かなんかやろ!
ええからルカだせや!〉
「随分と自分都合な解釈をなさるんですねー?
なぜ、嘘だと思うんですか?」
〈あいつは未だに俺のこと忘れられんはずやからなー!気ぃ惹きたくてこんなことしてんねやろー?〉
「やれやれ。おめでたい方ですねー。
彼女を無碍に扱ったのは貴方でしょう。
今更彼女の魅力に気づいて寄りを戻したいようですが、
残念でしたね。恋人ということに嘘はないですし、
結婚前提の同棲もするので、貴方のそれは思い込みに終わることになりますよ。
というわけで、小生の大切な大切な彼女に二度と関わらないで頂きたい。」
〈なんやとコラ!...チッ..もうええわ。恋人同士なんは、わかった。それやったらお前から奪うまでやわ!○○○におるから、今すぐ来いや!〉
「ふむ。何か勝負事ですかねぇ?
はてさて、何で勝敗を決めるおつもりで?」
〈そんなもん、ラップバトルに決まっとるやろうが!おちょくっとったら痛い目みんで?
地元のラップバトルでは負けたことないんやからな!〉
「そうですか。わかりました!では、これから指定されたところに向かいます故。あ、そうそう。
小生、こういうものです。」
温度差がありすぎる会話で、先ほどの絶望感はどこへやら。幻太郎があの二人の写真を送っても?と確認をしてきたので、こくんと頷く。
そのまま写真を送信した。
「改めまして。小生、夢野幻太郎と申します。」