第10章 雨のち嵐
トラウマにも似たこの感情は
きっと彼じゃないと消せない。
仕事で忙しいんじゃないかとか、
予定があったんじゃないかとか、
考える余裕もないくらいに
元彼からのメッセージは堪えたのだ。
ブロックしたはずなのに、
どうして?
アカウントを新しく作り直した?
何故?
何が目的?
思い出したくもないのに、
知り尽くした元彼の性格。
ろくでもないことを考えていることは明白だ。
何も考えたくないとは思ってはいても、
嫌なことほど、グルグルと脳内を駆け巡る。
それでもやることをやらなければと、
不用品の引き取り会社や引越しの段取りをと色んなところに電話をいれたりした。
それでも無慈悲に時間はあまり
もう何杯目かもわからない、紅茶を口にする。
少なからずタバコと紅茶が今の自分を落ち着けるアイテムだ。
そんな自分にお構い無しに、メッセージが来る。
【おい、無視すんなや。
久しぶりに会いたいし、もうアイツとは別れたから寄り戻さん?】
【なぁ!腹減ったんやけど!】
【お前んとこまで行くわ。住所教えて。】
【いつまで無視すんねん。】
蹲る。すべてを遮断するように。幻太郎はきっとまだ来ない。
距離を呪いたくなった。
それでも、これを止めるには返事をしなければならない。
【久しぶり。彼氏がおるから、会えません。もう、連絡してこんといて。】
【嘘つくなや。もう過去のこといつまでも怒ってんなや。】
【違う。嘘じゃない。そういうことやから。さようなら。】
【ふざけんなや。ヤキモチ妬かしたいだけなんやろ?】
【返事しろや。】
もう...いや...
ピンポーン
跳ねた肩はもう冷静では居られないと語る。
恐る恐るドアの前で はい と答えた。
「ルカ...??」
幻太郎!!
勢いよくドアを開け、彼の胸に飛び込む。
「大丈夫ですか?とりあえず、中に入っても?」
珍しく焦る彼の言葉に頷き、中に入れる。
すっかりものが無くなった家の中。
ポツンと置かれたソファーに座った。
「どうしたんですか...?」
これ...とスマホを渡すと、それの目を通した幻太郎が、
ぎゅっと強く私を抱きしめる。
「守りますから。必ず。」
目が合う。そして、重なった唇は、
タバコや紅茶よりずっと、落ち着くものだった。