第9章 雨のち溺愛 R18
『ねぇ、幻太郎。』
少し無言になって、切り出すことを決める。
幻太郎もまた無言で、話を聞こうと目を合わせた。
『引越しのことなんやけど...今の仕事が終わったら、引っ越そうと思う。それまで荷造りはするつもり...
でも...』
「...でも?」
『不安やねん..めっちゃ...
もちろん、嫌とかじゃない。
もし...』
「離れることが起こりうる...と言うこと..ですか...??」
徐々に俯いていく顔が幻太郎の声で
ハッと上がった。
『え?げん、たろう...?』
言葉が詰まるのも無理はなかった。
大粒の涙を溜めた幻太郎が不安気な顔で自分を見つめていたから。
そして、重力に耐えきれず
ポタッと布団を濡らした。
綺麗な瞳から零れていく涙は
宝石にでも変わるのではと錯覚するくらい、どこか幻想的だ。
『どうしたん...?』
「離れたくないです...!本当は、すぐにでも連れ去りたいくらいだ。
こんなにも誰かを好きになったことはない。全て、全て初めてなんです。
貴女と別れる瞬間を考えただけで
心が、体が引き裂かれそうに痛い...。
ルカ。小生の..俺の最初で最後の人であって欲しい。」
彼の大きな目から溢れる涙は、私しか止め方を知らないのかもしれない。
そして、祈るように強く私の手を握りしめた。
不安なのは、私だけじゃない。
ならば、せめて。
共有しようじゃないか。
この恋という呪いを。
この愛という毒を。
『幻太郎...』
泣いてる彼の唇を奪う。
涙がピタリと止まり、大きな目が更に見開かれる。
もう、止められない。
もう、止めてあげない。
肩を優しく押し、重力に従いそっと彼を押し倒す。
唇をゆっくりと離し、囁く。
『幻太郎の初めて。全部ちょうだい。』
いい度胸してるやん。
最初で最後と言うくらいなら、
言葉だけじゃないと証明して見せて欲しい。
「小生は...ルカの未来がほしい。」
うん。
あげるよ...。
お互いの全部を
共有しよう...。