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雨のち恋

第8章 晴れのち欲望


お昼ご飯も済ませ、
寄り道をしながら旅館に戻れば、すでに夕方を過ぎていた。
自由人な彼らはそれぞれ自由行動を始める。
乱数はこっちのオネーサンと遊びに行ってくる!と意気揚々と出ていき、
帝統はやっぱ我慢ならねぇ!と夜の街に消えていく。
恐らく賭場だろう。と慣れたように幻太郎はため息をついた。

「さて。小生達もどこかに行きますか?」

『じゃぁ...ワガママ言ってもいい?』

「小生にできることなら、なんなりと。」

海沿いを歩いてみたかった。
恋人と。
温泉から見える真正面の海は荒々しくも、優しさがある綺麗な海だ。
ぜひ歩きたい。と。
幻太郎には、全然ワガママでもなんでもない。と笑われてしまった。

手を繋ぎながら海沿いを歩く。
心地のいい沈黙と、波の音が聞こえる。
甘く艶やかな声が風に乗って鼓膜を震わせる。

「幸せです。」

幻太郎が、私と同じ気持ちを言った...。












海沿いを歩きながら、たわいもない話に花を咲かせる。
すっかり日が沈み暫くした頃、
部屋に戻り、潮風で冷えた体を温泉で温める。
温泉から、先程歩いた海沿いを眺め、
引越しの段取りを考える。
でも、少しばかり不安があった。
慣れない土地で不安と言うのもあるが、
急に訪れた幸せを手放しに喜べない自分が居るのだ。
壊れてしまったら?
またこの街に慰めてもらうの?
でも、ここで出会った思い出に耐えられそうにない。
また、どこかに逃げるの?

すると、得体の知れない汚い欲が湧き上がった。
依存させてしまおうか。
体に教えこんでやればいい。
幻太郎のような純粋な独占欲ではない。
自分の色に染めてやりたい。
女々しくも泣いて縋ることを教えこんでやりたい。
そんな汚れきった独占欲。
そうすることで、この不安は消え去るのではないか。と。
対して自分に自信があるわけでもないのに、
自惚れにも程がある。
悪魔と天使が耳元で囁いてるように思えた。











あぁ...なんてことだ....




気づきたくなかった...


こんなにも愛に飢えて、


こんなにも空っぽな自分なんて...
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