第6章 晴れのち嘘
朝食を終わらせ、お昼の12時にまた迎えに来ると言って、
乱数くんたちは自室に戻って行った。
自分たちも自室に戻れば、
朝風呂の用意をキャリーバックの上に出し、ベランダに出る。
タバコに火をつけて、煙を肺に取り込み目まぐるしい
生活の変化に頭の整理をつける。
よほど考え込んでいたのか、背後には気づかなかった。
「お誘いしてくれなかったんですか?」
後ろからぎゅっと抱きしめて来る生活の変化の元となる人。
『だって、煙たいかなって。幻太郎、タバコ吸わないでしょ?』
「えぇ。でも、世の喫煙者はタバコミュニケーションなるものをするとか。
小生も興味があります。
喫煙はしませんが、コミュニケーションはしたいですねぇ。」
それに、
そう言いながら私の横に来てベランダに両腕を置きながら続けた。
「タバコを吸っている姿すらも、美しい人なんてそうそういませんよ。
小説のモデルにでもなりそうだ。」
嘘ですよ。という言葉を待ったが、
すぐに出てこないあたり、嘘ではないのだろう。
『嘘ですよ。って言わないんですか?』
乱数くんや、帝統くんに対してのように茶化す様子もなく、ただただ思ったことを口にしたかのように
「小生はね、貴女には嘘をつきたくないんですよ。
嘘も含めて、小生の事を好きになってくれたのかも知れません。
でもね、貴女は少なくとも、
過去に色んな嘘で傷ついてきた。
少しも傷つけたくないんですよ。
朝、乱数や帝統に嘘をつくのに
いつもの癖で貴女を巻き込んでしまったのは、
しまったと、後悔しました。
過去のことを蒸し返すつもりはないですが、
貴女は自分自身にも嘘をつかざる得ないくらい
苦しんだと思うんです。
またか、と失望して欲しくない。
歪みを作りたくないんです。」
大切にしてくれているとは、
この事を言うのだろう。
親や友達から以外、経験のないそれに、
少し戸惑った。
どう返すのが正解かわからなかった。
でも、
『なら、一緒に嘘を着きましょ。
さっきみたいに。ね?
巻き込んだなんて、思わないで。
幸か不幸か、私は幻太郎の嘘はすぐにわかるみたい。
なら、乗せて欲しい。
嘘の共犯にして欲しいの。』
目を見開いて見据える幻太郎は、
すぐに目を細めて、
貴女には叶いませんね。と言って微笑んだ。