第4章 雨のち思い出
そこまで黙って聞いていた幻太郎さんは口を開いた。
「売られてきた街で、住もうと思ったのは...何故ですか?」
『お世話になったからです。
こっちで稼ぐために売られた。体を売って稼いでも稼いでも、身も心もお金も削がれる。それでも、ずっと側にいて依存してた私は離れて暮らすことで、正常な判断が出来るようになった。
働いてた場所は嫌だったけれど、店長はすごく優しかったしね。
あ、私って愛されてないんやなー。って。気づくことが出来た。
この街は気づかせてくれた街なんですよ。
それに、思い出も半同棲してた前の家も
すべて捨ててきたかったんです。
父が亡くなったときも、冷たくあしらわれて、それでも側に居たくて追いかけて住んだ街も、全て捨ててしまいたかった。』
ごめんなさい。つまらなかったですよね。
と笑うと
「つまらない...。
つまらない男ですね。きちんと唾を吐いて捨ててやりましたか?」
『別れを切り出したら逆上されました。
私よりずっと歳上で、口ではお前が幸せならってずっと言っていたのに。』
「....」
『私はね...そのまま、そっか。って何事も無かったかのように別れられたらそれで良かったんです。
でもね、
見損ないたくないんです。見損なって終わりたくなかったんです。だって...』
「...だって?」
そこまで言うと、いろんなことがフラッシュバックして、
言葉に詰まった。
代わりに涙がせり上がって来そうになる。
キラキラ光る夜景が歪んで見えた。
それに気づいた幻太郎さんは、
優しく私を抱きしめた。
『だっ、て...すべて..っ...否定されてるみたいだったから...私...頑張ってきたつもり...だったのに..っ..』
黙って頭を撫で、腕の力を強める幻太郎さんの肩を
情けなくも涙で濡らしていく。
「---。」
そう、優しく囁くものだから
私はまだ、涙が止まらない。
「頑張りすぎましたね。」