第12章 遥
K
「………よぉ」
「…………うん」
悶々とすごすこと20分。
ついに我が家の玄関に現れたあの人は、第一声がこれだった。
まともに見返すことができず、下を向いて、迎え入れる。
「あ。懐かし。かずの家の匂いがする」
「………そう?」
ペタペタとリビングに入ってきながら、呟く穏やかな声音は、あの頃と何も変わっていない。
チラリとその姿をみれば、口髭をたくわえた見事な海の男。
…………アイドルの片鱗もねぇな。
思わずじっと見つめていたら、パチリと目があった。
「………ん?」
「………あ……ビール飲む?」
慌てて、キッチンに飛び込んだ。
久しぶり、とか、待たせてごめん、とか。
なんかないのかよ。
感動的な再会を期待してたわけじゃないけど、あまりに通常運転すぎて、戸惑う。
俺、2年以上放ったらかしだったよね?
ブツブツ考えながら俯き、冷蔵庫の扉を開けると、カウンターに肘をついたあの人は、のんきに、
「俺、車なんだ。アルコールもらうから泊めてな」
と、言ったもんだから、驚いて思わず振り向いた。
「え……?免許とったの?」
「うん。やっと」
「駐車場は?」
「近くのコインパーキングに停めたよ」
「………言ってくれりゃ、来客用駐車場あったのに」
言いながら、ビール缶を渡すと、あの人はニッコリ笑った。
「早く会いたくて」
「………………!」
どの口がそんなこと??
俺は、思わず、は?と聞き返した。