第12章 遥
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少し、口を尖らせた顔に、あ、怒ってんな、と思った。
そりゃ、そうか。
あまりにも俺が自由すぎだったのは認めるよ。
でも、この数秒のやりとりで、俺は確信した。
長年のつきあいの勘、みたいなものだ。
俺は、渡されたビールをカウンターに置き、ぽつんと佇むその華奢な体を抱き寄せた。
「なっ……」
抵抗されかけた体を、離すまい、と、ぎゅっと抱きしめると、徐々に力は弱まり、大人しくなる。
俺は、あいつのふわふわした髪の毛に頬を寄せた。
久しぶりに抱き寄せた体は、相変わらず細い。
そして、いい匂いがする。
俺は静かに詫びた。
「ごめん」
「…………」
「ごめん」
「…………なんに謝ってんのよ」
「お前に」
「………そうじゃなくて」
「勝手でごめん」
「…………あのさ」
「かず」
「聞いてる?」
「……………ごめん」
「…………………」
「待たせてごめん」
「………………」
黙りこくったかずの額が、こつん、と俺の肩口にのった。
俺はかずの小さな背中をさすって、ごめん、と詫び続けた。
そして。
「………愛してる」
小さく囁くと、かずの体は分かりやすく硬直した。