第12章 遥
K
馬鹿じゃねぇの、と思った。
謝りゃなんでも許されると思うなよ、と思った。
けど、体は正直で、抱きしめられたら、単純に嬉しく思う自分がいた。
昔より数段逞しくなった胸板は熱くて。
少し感じるタバコの匂いとか、懐かしい香りとかに包まれてると、次第にどうでもよくなってきた。
俺はあなたの何?なんて………この状況で聞いたとこで、答えはもらえてる気がする。
都合のいい恋人なんて演じてやるものか、とも少しだけ思ってたけど、本人目の前にすると、そんな気持ちも消えた。
ただ、ただ…………この人と会えて嬉しいんだ、俺。
『愛してる』
そんななかで、愛してる、なんて言葉をきいたら、もうダメだった。
柄じゃないと思うのに、後から後から涙が溢れてきた。
「かず?」
「…………見んな」
ぐりぐりとあの人の肩に顔をおしつけて、誤魔化したけど、多分全部バレてるな。
何年も抱えてた不安な気持ちや、戸惑いや、不満や、そんな負の気持ちが、一瞬で霧散したよ。
「----ずるいよ」
「うん、わかってる」
「………ばか」
「ごめん」
「あんたなんか………」
「ごめんって」
グズグズ泣く俺の背中を、あの人は優しく撫で続けた。
涙と鼻水でどうしようも無い顔を隠すように、くっつけていたら、不意に耳元で
「かず」
と、呼ばれる。
「…………なに」
「…………ただいま」
なに。
今更。
思ったけど。
俺は、ずずっと鼻をすすり、顔をあげた。
「…………おかえり」
そういうと、あの人は優しく微笑んで、俺に口付けた。
Fin.