第12章 遥
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ラジオから、懐かしい声がする。
相葉ちゃんだな、これ。
俺は、赤信号を確認して、静かにブレーキを踏んだ。
この年でやっとで取った自動車免許は、思った以上に俺の行動範囲を広げた。
たまに外を歩けば、面が割れすぎているせいで、週刊誌の格好の的になり、久しぶりに嫌な気分になったものだ。
その点、自動車はいい。
どんな服を着ていようが、肌に落書きしてようが、見つかる心配はほぼない。
………あいつらは、妄想で文章を書くからたまったもんじゃないな。
ネットニュースで見る嘘しかない記事に辟易しながらも、撮られた自分の写真には、苦笑した。
年とったなー、俺。
思わず呟いちまった。
今夜は、突然思い立って、あいつに会いに行こうと思い、こうやって車を走らせてる。
ずっと南国にいたせいで、長いこと顔を見てない。
全く連絡もしてなかったから、拗ねてるだろうな、と予想はつく。
………そして、きっと、拗ねてることを悟られまい、と、向こうも俺に連絡をとってこようとしなかった。
故に、俺らは、遠距離恋愛の拗らせバージョンみたいな関係に陥ってる…、と、思う。
嫌いになったわけじゃない。
あいつの恋人の座をおりたわけでもない。
ただ、ただ。
単に自分の世界を旅してみたくて、飛び出しただけのこと。
俺に与えられた環境と、あいつの持つ環境は相容れないほど違いすぎたから、とりあえず距離ができただけなんだよ。
青信号で、再びアクセルを踏む。
周年を祝ってか、かつて嫌という程歌ったデビュー曲が、ラジオから流れ出した。
「ゆあまいそーそー、いっつーも………ふふふん」
鼻歌交じりに歌ってみる。
…………あいつのマンションまであと少し。