第9章 温
翔くんは、自他共に認める、料理ができないアイドルという称号をなんとかしたいから、この企画を立ち上げたという。
……概ね成功してんじゃね?と、思う。
俺は目の前で湯気をあげてる、豚肉の生姜焼をまじまじとみつめた。
見た目はとてもうまそう。
玉ねぎが若干太い気もするけれど、メジャーで測ってまで五ミリに切ろうとしていたその心意気を買いたい。
「食ってみて」
向かいに座った翔くんが、ワクワクした顔で俺を見る。
「うん……いただきます」
俺は箸を手にとってペコッと礼をした。
箸でつまんだロース肉は柔らかくて、よくタレが絡んでる。
口に入れると、甘辛い風味が広がる。
「お。うま!」
思わず口に出すと、翔くんは、だろ??と、言って鼻をふくらませた。
「すごい、翔くん。できるじゃん……」
「俺、YDKだから」
「やればできる子?」
「そ」
少し油がきつい気もしたけれど、世辞抜きにしても美味しい。
俺はすっかり感動してしまった。