第9章 温
キッチンからは、実況中継よろしく、翔くんの大きな独り言。
「えと……フライパンから煙がでたら油……と」
俺は鼻をピクピク。
…………なんか……熱しすぎじゃない?
……臭いけど……
「おわっ……ですぎた。ま、いいや」
…………だ、大丈夫?
若干、ドキドキしてると、そのうち、バチバチバチと何かが弾ける音がしてきた。
「あつ!……あっつー!!」
翔くんの悲鳴に、思わず背伸びしてキッチンをのぞく。
翔くんはトングで放り投げるように肉を投入してる。
……手伝いに行こうか。
一瞬体が動きかけたが、
「いーち!にーぃ!」
と、蓋をしてからのカウントする叫び声が聞こえてきたので、もう一度ソファに座り直す。
「おーいい感じ!」
嬉しそうな声に、ホッとする。
なんだか香ばしい匂いもしてきた。
こっそり中腰で、キッチンの翔くんを盗み見る。
あまり最近では見ないほど、真剣な瞳で、フライパンを動かしてる。
……あれ、煽ってんのかな……
IHでは、通電しなくなるため、フライパンは煽れない。
……ま、いいか。
でも、あまりに一生懸命にしてるから、余計なことはいうまい、と、俺は黙ってそのまま見守った。