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【弱虫ペダル/弱ペダ】愛声空模様【新開隼人】

第1章 くもり所により快晴


ー東堂Sideー

あれはそう、正に一目惚れだった。

見向きもされないのに懸命に声援を送っている姿が可憐で、目が離せなくなった。

部活に行く途中、何気なくやった視線の先に見つけた彼女。大して用もないのに無意識に踏み入れた図書室。

一体何をやっているのだオレは…

苦し紛れに借りた本を眺めて深い溜め息を一つついた。

こんな気持ちは初めてだ。普段からファンの女子に囲まれているし、今まで彼女だって居た。

なのに何故だ…何故こんなにも胸が苦しいのだ。相手にされないとわかっているのに、健気に声援を送る彼女を見たから?

……いや、彼女の視線の先に居るのがオレではないからなのだろう。

「お、来たか。尽八が珍しいな遅れてくるなんて」

「ああ、隼人か。うむ…少し寄ったところがあってな」

部室の前で声を掛けられて足を止める。

顔を上げると、呼び止められたのがモヤモヤとする黒く渦巻きはじめている感情の要因のひとりである隼人であると認識すれば、勢いに任せて彼女のことを口走りそうになり何とか平静を装う。

「へえ、もうクライマー組は登りに行ったみたいだから早く行った方が良いんじゃないか?」

尽八居なかったから寿一が指示してたぞ、と言い練習に向かおうとしている隼人を思わず呼び止めた。

「あ、いや…大したことではないのだがな。さっき先日の彼女に会った。隼人に応援していると伝えて欲しいと言われてな」

「先日の…?ああ、ファンクラブの子?」

「何だその顔は!ファンからの声援はちゃんと有難く受け取るべきだぞ隼人よ」

「確かに嬉しいけどさ…興味ないし」

「全くお前というやつは……」

「お、ほら尽八!早く支度して行かないとじゃないのか?そこの真波連れてさ」

隼人の指したその先に真波の姿を見つければ、先ほどとは違う大きな溜め息を漏らして。

じゃあ、先に行くからなと言う隼人に手を挙げて応えながらも『興味ない』という単語だけが脳裏に焼き付いて離れない。

興味がないというのなら……遠慮なく此方へ彼女を振り向かせても問題ないということだな。

隼人の背中をジッと見つめて、グッと拳を握り締めた。
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