第3章 第一夜
馴染ませるようにゆっくりと、少しずつ霊力を口内に流し込んでいくカヲル。今のところ刀剣から拒絶反応はなく、素直に受け取ってくれている。
「っはぁ、こんなもんです、か・・・ね、」
唇を離した途端、激しい疲労感が襲い掛かってくる。
一般審神者一人分相当の霊力を分け与えたのだから当然だが、本来なら数週間は意識不明になる所だ。ある意味、カヲルだからこそ成し得る業である。
(流石にこれは堪えました・・・体が鉛のようです)
このまま眠ってしまいたい衝動に駆られるも、自分に鞭打って何とか体勢を立て直す。まだ一振り目、ここで休んでいる訳にはいかないのだ。
幸い、刀剣の神気は安定してきている。
このまましばらく安静にしていれば、命の心配はないだろう。名残惜しいが、もう行かなくては・・・。
眠っている刀剣の頭を数回撫で、壊れた扉の前で一言、優しい声音で呟いた。
「扉は開いてますから、元気になったら出てきてくださいね────" " 「!!」」
言葉を被せるように林中に響き渡った悲鳴で、一瞬にして悪夢の現実へと引きずり戻される。
「い、今のは・・・も、もしや!!」
動物とも人間とも取れぬ異様な叫び声にカヲルは聞き覚えがあった。
あれは間違いなく、妖の──。
そして、それが意味することは只一つ。すなわち、こんのすけの悲鳴と言うことだ。
"あの本丸に送ったこんのすけは1匹たりとも帰ってきてないんです。だから、審神者の安否確認ができ──"
ここへ来る前に政府役人が話していたことが頭を過り、嫌な胸騒ぎが襲う。
──既に殺されていると思われていた狐が生きていた。
そのことを喜ぶべきなのだろうが、この本丸の刀剣たちが政府の手先である管狐を理由もなく、わざわざ生かしておくとは思えない。
とすれば、答えは明確だ。万が一の為の罠、そう考えるのが妥当だろう。
(自分から罠に掛かりにいくべきか、でも・・)
思考と行動が噛み合わないまま、気付くとカヲルは恐ろしいスピードで林を駆け抜けていた。
立ち塞がる枝折戸を勢いで飛び越え、中庭とおぼしき場所へ辿り着くと必死になって声の主を探した。
──────
業(わざ)
枝折戸(しおりど)