第4章 変わった世界
皆の声も聞こえない程の痛みと記憶が押し寄せてきて、そして朱里はまたハッとして呟いた。
「違う…そうだ、最初から違ってたんだ…そういう事だったんだ…」
「朱里、何を言って…」
急にブツブツと呟く朱里を、優しく抱き締めながらローが問い掛ける。その問い掛けに、朱里は幸せそうに笑って答えた。
「私、ちゃんと記憶喪失だったんだよ」
それだけを言って、痛みに耐えきれなくなった朱里は気絶した。ペンギンとシャチが慌てふためき、ベポはボロボロと泣き出していた。そしてローは呆然としながらも朱里の言葉を考えた。
『 一種の記憶障害だろう。ただ、似たケースで自分の名前は分かってもどうやって過ごしてきたのかよく分からないパターンだったり、覚えているのにそれを自分の記憶と思えなかったり…。今のお前みたいにしっかりと自分の事は覚えていて、過去の事が別の記憶で塗り替えられてるのは…聞いた事がねえ』
「…そうか、そういう事か」
記憶喪失の中には、数年間の記憶が抜けて成人した者が子供の頃の記憶まで戻ってしまい自分がその年齢なんだと思い込み、姿が変わっているのを見ても理解出来ないパターンがある。
朱里には前世の記憶がある。衝撃を受けて、記憶が前世まで退行していたら?過去の朱里が今に来たんじゃない。今の朱里が過去に戻ってしまっただけだった。
「朱里…それでも…俺は…」
そういう事だったなら、朱里が悩んできた全ても解決出来るかもしれない。忘れて生まれ変わったのではなく、生まれ変わった後にその頃の記憶に戻ってしまっただけ。それでも、ローは納得出来なかった。たった数週間だけでも傍にいた彼女はもういない。奇跡を望んだ所で、彼女が戻ってくる術はない。
「………俺は、朱里を寝かせてくる…後は任せた」
「…あいあい…キャプテン…」
「任しとけよ…」
「…キャプテン、しっかりな」
新しい船員は展開に追い付けずに混乱したままだったが、ローは構ってる余裕はなく朱里を連れて部屋へと向かった。後ろでどう事情を説明すべきかと困っている3人には申し訳ないが、今はローにはこの感情を整理しきれなかった。