第4章 変わった世界
朱里のレシピノートを見た時から嫌な予感はしていた。ただ、おかしな記憶障害なんだと思い込みたかった。日記帳を見て違和感が出た。この世界の朱里と今の朱里の共通点と差異。ただの記憶障害であってくれと願った。それならいっそ諦めもつく。障害によって、現れたおかしな妄想世界の記憶なんだと思う事が出来る。当たって欲しくないと思いながらも鍵付きの日記帳を見た。朱里は前世の記憶を持っている。今いる朱里は前世の朱里だった。そこまでで良かった。そうすれば、何も考えずにただ今の朱里を愛して、前世も今世も愛してるだなんて臭い台詞でも吐けば終わる話。
「…今ここにいる記憶だけないなんて、いっそ笑えてくる…」
記憶障害で今までの記憶が無くなったのかと怖くなった。今でもないのに変わりはないのに、それでも朱里である事に安堵した。独りが怖くない朱里は、愛した朱里と変わらない。変わらないからこそ、数年間の思い出が無くてもローを好きになった。たった数週間でこんなにも心に刻まれていく。知りたくなかった、知ってしまった。朱里はこの事を記憶に刻み付けられない。忘れてしまう。これからどれだけ愛しても、覚えてるのは自分達だけ。朱里の記憶には残らない。
「…はぁ。奇跡が起きるのを、信じるしかないって…朱里みたいに開き直るしかないのか…?」
何も出来ない自分に苛立ち、髪を掻き毟る。憂さ晴らしにもならない行為にまた溜息を吐くしかなかった。
自分はまた、大切な人に何も出来ないまま思い出を抱えて失うしかないのか。こんな事なら、朱里が気絶する事となったあの時に…いや、そもそも連れ出さなければ。好きにならなければ。いっそ、出会わなければ…。そんな考えに嫌気が差し、部屋を出ようとして扉を開ければちょうど朱里が部屋に来た所だった。
「おぉ、びっくりした。はい、おにぎり」
「…あぁ、すまねぇ」
「ぁ…っー…食べ終わったらお皿持って行ってね。私皆の所行ってくる」
「おぅ」
一瞬、何かを言いかけた朱里。どうしたのかと問い掛ける事も出来ず、ローは朱里の後ろ姿を見ていた。