第2章 新しい世界
今頃皆はどんな気持ちでいるだろうか。ベポはローに朱里が船をおりたいと言った事を伝えたのだろうか。
しかし、実際問題として朱里が船を降りても生きていけるかどうかは別だ。この世界には海賊がいて、海賊の中には人の命をなんとも思わない奴等はいくらでもいる。それこそ、朱里が最初にロー達へ抱いた恐怖心を持ったまま人と接さなければいけない。今船を降りたとしてどうやって生きていくのか。そんな事も言った後に考えている自分へ嫌気が差して朱里はまた泣くしかなかった。
「…朱里?」
ノックの音もなく、そっと部屋の扉が開かれる。そこにはペンギンがいた。
「あ、あのさ…なんて言うか…そりゃ、な…記憶が戻ったら良いとは思ってるけど…お前はお前だし、別にそのまんまでも良いと思うんだけどよ…」
どうにかして慰めたいのか、今の朱里にとって慰めにならない言葉をかけられる。今の朱里を肯定しているようで、朱里の元の世界に戻りたいという気持ちや、この世界の朱里とは違うという部分を根本的に分かっていない言葉。それに対して今の朱里にはペンギンの気持ちを汲んでやる余裕はなかった。
「そんな事言いに来ただけなら…出てって…」
酷い事を言っているとは分かっている。ただ、分かっていても今の朱里にはどうにも出来ない。それからまた数十分後。扉がノックされ返事を待たずに扉が開けられる。
「朱里!えっと…その…」
何かを言おうとして、シャチが固まる。あれこれ考えてはああでもないこうでもないとブツブツと呟いている。せめて考えがまとまってからくればいいのにと少し笑えて、それでも結局今の自分にかけられる言葉なんてないのに何故わざわざ来るのかという苛立ちが出てくる。
「言う事ないなら、来ないで」
そう言うと、肩を落として出ていくシャチ。自分がどんな言葉をかけられたいのかも分からず、自分を慰めようとしてくれる人達を傷つけては自己嫌悪ばかり。けれども、私を見てるのに他の人を見て、私への言葉じゃないのに私に言わないで、と叫びたくて堪らなかった。そんな事を言えば困らせてしまうのは分かっているのに、自分の感情を抑えられなかった。