第2章 新しい世界
「…悪い…」
ローは一言だけそう言って部屋を出て行った。朱里は部屋の中で1人泣き続けた。未だに考えはまとまらずに、自分は誰なのかも、本当に記憶障害なら日本での記憶は一体何なのか。何故この世界の朱里が日本で生きてきた自分と同じレシピを知っているのか。本当に記憶障害なら今すぐにでも日本の記憶が消えればいいのに。そうすれば、あんなにも優しく自分を愛してくれる人達に酷い言葉も言わずに済むというのに。
どれ程泣いたのか、部屋の扉がノックされる。無視をしているとベポが入ってくる。
「あの、ね…朱里…キャプテンから、話聞いたんだけど…」
オロオロとしながらも、放っておけずにやってきたベポ。既にローが八つ当たりのような事を受けたと聞いているだろうにそれでも、朱里の心身を心配して来てくれた。でも、それさえもこの世界の朱里との繋がりがあるからだ。朱里からすれば、何故か自分を知っていて、別の人間と同一視しては安心されて、一体自分は何者なのかと悩む原因にしかなっていない。
「…私…もう、嫌だ…船、おりたい…」
堪えきれずにそう言えば、ベポは更に慌てている。何かを言わなくちゃいけないのに、何も慰めにならず。引き止めようにも引き止める理由こそが今の朱里には船をおりたい原因だと分かっているから。だから、ベポは何も言わずに扉を閉めるしかなかった。
「もう、嫌だ…」
ただ普通に18年間過ごしてきた。昔はお転婆と言われたし、今でも痴漢が現れれば撃退出来る。好きな男子と中々素直に接する事が出来なくて友人にからかわれて…。でも、そんな日常を楽しく過ごしていた。毎日毎日同じ事の繰り返しが尊くて、好きな人との距離が変わらないかななんて話をして。
「普通、だったよ…私は、普通に生きてただけ…なのに、何で…」
ただ体育の授業を受けていただけ。途中で記憶が飛び目が覚めたら知らない男達に囲まれて、こちらは知らないのにあちらは知っている。自分というモノへの自信を無くしていってそれでも優しい彼らの為にと気にしないように振舞って、それを分かりつつも自分達の気持ちも抑えられない彼らとの日々。
耐えれるわけが無い。