第1章 ここは私の世界じゃない
「朱里…っ………すまねぇ」
もう一度名前を呼び何かを言おうとして言葉が詰まり、結局聞こえて来たのは謝罪の言葉のみ。一体どんな理由があって謝るというのか。朱里はその声に対してどう反応してやればいいのか分からずにいた。
「あの時…俺が、ちゃんと守ってやれたら…お前が…1人で、泣く事も…なかったんだよな…」
言葉を選んでいるのか、やけにオドオドとした物言いに聞こえた。朱里はそっと布団から出ると、目の前で悔しそうに顔を顰めるローを睨んだ。
「…貴方のせいじゃありません…」
「………はっ、お前…それ言う為にわざわざ…」
笑っているのに泣きそうな顔だと朱里は思った。朱里を見ているのに別の人を見ているようで、でもロー達は朱里は朱里のままだと思っているようで…それに対して何と説明すればいいのかも分からない苛立ちが朱里を襲い続ける。
「お前は、お前のままだ…俺達との記憶がないだけで…朱里は、ちゃんと朱里のままだ」
そう言われると、この世界にいたであろう朱里と今朱里自身が認識している自分は同じ性格で言う事が一緒だったのだろうと。だからこそ時折ホッとしたように目の前の男は笑うのだろうと。その度に、どれだけ朱里自身が自分の記憶に悩んでいるのか…その苛立ちを、八つ当たりのようにぶつけてしまった。
「私は、記憶障害なんかじゃない!貴方達なんか知らない!いい加減にして!私は…私は…!」
怒鳴るだけ怒鳴って、また布団に潜り込んだ。分かってはいる。ロー達は悪くない。きっと悪いのは自分なのだと。それでも抑えきれない苛立ちを相手にぶつけた罪悪感で朱里はまた泣きそうになっていた。
「だから言っただろ。お前は朱里だ。記憶がなくっても、別の記憶があっても。朱里な事に変わりはねぇ…俺が惚れた女だって事にもな」
そう言って、ローは朱里が被っている布団を剥ぎ取った。泣いている朱里が慌てて顔を隠そうとするとローはその手を簡単に片手で拘束してしまった。
「記憶ならこれから作ればいいんだ…お前がお前らしくいれたらそれで良い」