第3章 面影のない君
「お前、勝手に俺の前から姿消しといていい度胸じゃねぇか…」
え、と顔を上げたと同時にごつんと鈍い痛みがおでこに走った。
「ったあ!」
もちろん手加減はされていたが、凛のゲンコツはなかなかに痛かった。
両手でおでこを押さえて後ろに下がった私を見つめる凛の瞳は怒りを含んでいたが、すぐにそれは優しさへと変わる。
「ばかやろう…」
次の瞬間、私は凛の腕の中にいた。
ふわりと私を包むあの頃とは少し違う、香水の匂い。
「……ごめんね。凛」
「もう勝手に…俺の前から居なくなるんじゃねぇよ」
単純に、驚いた。
凛の口からそんな言葉が出て来ようとは。
とっくに忘れられたと思っていた。
憎まれていると思っていた…。
しかし凛は違ったのだ。
それが逆に凛らしいと言えばそうなのだが、私はどこか違和感を感じていた。