第3章 面影のない君
2人の間に何とも言えない微妙な空気が漂う。
また会えたら話したい事が沢山あったのに、いざその状況になって初めて知る。
胸がいっぱいで言葉が上手く浮かばない。
喉から出かかっては引っ込む言葉をごくりと奥へ飲み込んで、私は凛をしっかりと見つめた。
あの頃とは違う凛の姿を目に焼き付ける。
凛も同じように私を見つめてから小さく息を吐くと、一度廊下の奥に視線を動かした。
凛の瞳に影がさす。
何かあるのかと私もチラリとそちらを盗み見たが、廃れた廊下の奥に何があるのかは私には分からなかった。
「外で話そうぜ」
「えっ」
「流石に思い出話するには場所が悪いだろ?」
ニッと笑った凛に促されて廃墟のスイミングクラブを後にする。
外に出ると辺りはもう暗く、風が肌を撫でるその冷たさに、凛との再会で上昇した体温が正常に戻っていくのを感じた。
「凛はどうしてここに?」
「俺、昔ここに通ってたんだよ。」
辺りを確認してから近場のベンチの方へ足を進める。
2人してベンチに腰をおろし、言葉を交わす。
ベンチに座る私達の間の距離が、今の2人の距離を表しているようで。
その距離を飛び越えてまたあの頃の様に仲良くできるのは、まだほんの少し先になるだろうな、とぼんやり考えていた。