第3章 面影のない君
私の瞳から滲んだ涙がプールの水と混ざり合う。
苦しいよ…。
強く噛み締めた唇には自分の歯が食い込んでいたが、水の冷たさに感覚を失ったそこは痛みを感じない。
底なしの沼…深海の闇…。
私の体は深く堕ちていく。
もがく指先が外の空気に触れることはない。
「……っ……」
この苦しみを乗り越えた先には、私の望んだ未来が待っているなんて…そんな都合のいいことは無いだろう。
……でも。
少しだけ…少しだけでいい。
水への恐怖心が少し無くなって、水と触れ合うことが出来る…そんな未来があればー…。
また、貴方と同じ世界を見ることが出来るかもしれない。
水の中で歪む視界で、自分の指先を見つめた私は、ゆっくりと目を閉じた。