第3章 面影のない君
まるで私を誘うように揺れるプールの水面を見つめながら、私はその時の記憶に思いを馳せる。
「……………」
ゆっくりとプールに近づいて行く。
にじり寄るように少しづつ足を前に出す。
プールの水面に映る自分と目を合わせて対峙する。
表情が硬く強張っている自分の顔が揺れる水面に映り歪む。
伸ばしかけた手が止まる。
……私はー…。
ちゃぷんと指先が水の中に入る。
瞬間に奪われていくような自分の体温を感じながら、私は息を吐いて目を閉じる。
怖くなんてない。
怖いはずない。
だってこの感覚は、昔好きだったものなのだから。
「怖いはずなんかないー…」