第3章 面影のない君
渚くんが拭いてくれたおかげで水滴一つ付いていない足に、素早く靴下を履く。
まだ水に濡れている感覚はあるものの、靴を履いた私の足はしっかりと地面についている。
もう水の中にはいない…。
「ハル、そろそろチャイム鳴るよ」
「ああ…」
まだ泳ぎ足りなさそうなハルくんがプールから上がってくる音にすら反応してしまいそうになり、私は体に力を入れた。
ペタペタと歩いてくるハルくんの足音が聞こえる。
いつからこの音が…水が波を立てる音が嫌いになったのだろうか…。
どうして私は水を嫌いになってしまったのだろうか…。
どうして…。
考えても答えは私の中に浮かぶことは無く、震える息を吐いてパイプ椅子から立ち上がった。
「先に教室行ってる…」
「由真ちゃん…」
何か言いたそうな真琴くんの横をすり抜けて歩みを進める。
背後からまた放課後ね、と渚くんの声が聞こえた。