第3章 面影のない君
子供用のプールに張られた水が揺れる感覚。
「…えいっ」
私の気分を紛らわそうとしてくれたのだろう渚くんが、ぱしゃっと水をふくらはぎにかける。
「ひっ…!」
たったそれだけの事で?と疑問に持つ人がいるかも知れないが、私はそれだけで口から悲鳴が零れてしまった。
「…渚くんこれ以上は…」
「うん。ごめんね由真ちゃん…今日はここまでにしよう?」
私の怖がり方に異常を感じたのか怜くんが渚くんに声をかけると、水の中に浸かっていた足が引き上げられる。
ほっとして息を吐き目を開くと、眉を下げて申し訳なさそうな渚くんが私の足に付いた水滴をタオルで拭ってくれた。
「別に…。了承したのは私だし」
そう。
水の克服練習を了承したのは私なのだ。