第3章 面影のない君
冷たい水が体を伝わり、体温を奪っていく。
先程から微かに震えている手に力を込めて、私は制服のスカートの裾をぎゅっと握っていた。
「由真ちゃん大丈夫?」
大丈夫な訳がない。
怖い。
冷たい。
無理無理無理。
「…っ」
パイプ椅子に座り足だけを子供用のプールに入れるような形で、私は足先から伝わる恐怖と戦っていた。
しかし渚くんや怜くんに弱味を見せたくない一心で、唇を噛み締めて必死に涙を我慢していた。
閉じたまぶたの裏側に蘇るあの時の記憶。
「由真さん大丈夫ですか?」
背後から心配そうな怜くんの声が聞こえるもの、私は頷いて答えることすら出来ないでいる。
…情けない。
まさか子供用のプールですらこんなに恐怖を感じてしまうなんて。