第3章 面影のない君
そんな私を現実に引き戻したのは、渚くんの言葉だった。
「僕達は由真ちゃんの水の克服練習をしようとおもって!」
なに余計な事を言ってるんだ!
いや…別にハルくんに知られたら、どうにかなるって訳ではないのだが…。
何故か自分にもよく分からない感情が胸の辺りに広がり、その部分を手で押さえる。
「…そうか」
そんな私に気づいていないハルくんは、そう呟いてまた水の中に潜ってしまった。
どうでも良さそうなその反応に少しむっとしていると、こちらを振り返った渚くんと視線が合った。
「じゃっ、さっさく練習しよっか!」
ニコニコと笑みを浮かべる渚くんに無意識に体を引いてしまう。
用意するものがあると用具入れに向かった渚くんの背中を見送りながら、私はそっとため息を吐くのだった。