第3章 面影のない君
有無を言わせない渚くんに腕を引っ張られる形で、私はプールサイドに足を踏み入れていた。
「…あれ?」
プールの水を視界に入れないようにそっぽを向いている私の耳に届いた渚くんの声。
それに釣られるようにして見たプールの中には、一つの影が漂っていた。
「ハルちゃん?」
渚くんが声をかけたと同時に顔を出したハルくんは、私達を見つけると少し目を見開いた。
「…こんなに早く、どうしたんだ?」
「それはこちらの台詞ですよ、遙先輩」
てっきりこの時間だからまだ誰も居ないだろうと思っていたが、すでにハルくんと言う先客の姿。
いつから泳いでたんだろう…。
ポタポタと水滴がハルくんの髪の毛からこぼれ落ちていく様を眺めながら、ふとそんな事を思っていた。