第3章 面影のない君
「…逃がさないよ?」
腕を掴まれて後ろに引っ張られた感覚と共に、耳元で渚くんの低い声が聞こえた。
「…へ?」
逃がさないって何…?
いつもと違う声色に、体に変な力が入る。
錆び付いたロボットのようにギギギッと後ろを振り返ると、にやりと笑った渚くんの顔が視界に入った。
「さあ、行こうか」
行くってどこに?
そう思ったのは怜くんも同じのようで、2人して首を傾げる。
そんな私達を引っ張って歩いていく渚くん。
やがて付いた先は私の憂鬱の原因でもあるプールだった。
……まさか。
逃げたい衝動に駆られる私の心を読んだ渚くんは、掴んでいる手に力を込める。
「逃がさないっていったでしょ?」
にこっと笑った渚くんの顔はいつものそれに戻っていた。