第1章 水泳部と少女
「そっか…。それならいいんだけど」
何も話す気がない私を見た真琴くんは少し躊躇ってからまた歩き出す。
今度は先ほどよりも歩みを緩めて。
次は足を止めないように歩く私の鼻がむずむずとして、口元を両手で押さえてそっぽを向いた。
「ひっ。……くしゅっん」
はーっと息を吐いてずっと鼻を啜る。
「気づかなくてごめんっ!!」
「は……?」
前を向くと手を合わせて真琴くんが大きな声で謝った。
その意味が分からずにクエスチョンマークを浮かべる私を余所に、真琴くんはわたわたと言葉を紡いだ。
「えっと、ジャージあるけど部活で使ってたやつだから嫌だよね?!」
「いや…あの大丈夫だから」
静止の声も虚しく、真琴くんは私にちょっと待ってて、と言うとバタバタと走って行ってしまった。