第1章 水泳部と少女
肩を並べて暗い校内を2人で歩く。
「………」
「………」
それ以上はお互いに共通の話題も無いので、自然と言葉を交わすことはなくなった。
背の高い真琴くんと並んで歩くのは何だかむずむずするし、この変な空気にも何と無く居心地の悪さを感じる。
何か話題を提供した方がいいのかな、と頭を悩ませたが、何故憎い水泳部に気を遣わなければならないのかとその考えは却下された。
ちらっと外を見るとすでに日は落ち、真っ暗になっていた。
窓ガラスに2人の姿が映る。
暗い、暗い世界。
水底のあの世界に似ている。
誰の声も届かない世界。
「由真ちゃん?」
真琴くんに名前を呼ばれた事で、はっと意識を取り戻す。
いつの間にか足を止め佇んでいた私を不審に思った真琴くんがこちらに戻ってくる。
「どうかした?」
「ううん。何でもない」
そう。
何でもない。
私はあの時の事など…思い出していないー…。