第1章 水泳部と少女
「あ、由真ちゃん。ここに座って?」
…名前。
真琴くんが手招きする側にはパイプ椅子が用意されていて、私は言われた通りにそこに座った。
「やっぱりハルのジャージは大きかったみたいだね」
くすっと笑った真琴くんは、手に持っていたタオルでまだ乾ききっていない私の髪の毛を拭いていく。
「なんで名前知ってるの?」
「え、だって同じ学年でしょ?」
まあ、それはそうだけど。
一度も同じクラスになったことないのに…。
それ以上は何も言わずに、私は渚くんからもらったカフェオレに口を付けた。
……そう言えばハルくんは?
きょろっと辺りを見渡すと、ばしゃっと水しぶきの音がした。
「遙先輩っ、早く上がって下さい!」
「ハルちゃん風邪引いちゃうよー!」
プールサイドから呼びかける2人の声を無視して、ハルくんは優雅に水の中を泳いでいる。
水を味方にして、水の中で自由に泳ぐその姿はまるで…。
「…人魚みたい」
さっき助けてもらった時も思ったけど。
「ハルの泳ぎは本当綺麗だよね」
私の言葉を肯定するように真琴くんはにっこりと笑うと、髪を拭いてくれていた手を止めた。