第5章 鉄骨娘
釘﨑野薔薇にとって、呪いとの対峙は慣れたものになっていた。
自分が田舎に住んでいた頃から、目視し、その上で祓うことができるのだ。
それ故の自尊心が彼女にはあった。
─────だからこそ釘﨑は思い知る事となる。
地方と都会では、呪いのレベルが違うことを。
(クソクソクソクソッ!!こんな呪い大したことないのに…!!それを自覚しているんだ!
それ故の人質作戦…!!)
それは単なる呪力の差ではなく
必要なまでの『狡猾さ』であった。
知恵をつけた獣は時として残酷な天秤を突きつける。"命"の重さをかけた天秤を。
釘﨑は頭で考えた。大したことはない、今まで幾度となく祓ってきた程度の呪霊にいいようにされ人質を取られた現在、自分のどの行動が正しいのか。
釘﨑が死ねば子供も死ぬ。子供が死んでも釘﨑は死なない。
(合理的に考えて、私だけでも助かった方が良いでしょ…!?)
合理的に考えればその通りだ。子供がどうなろうと突っ込み、無理矢理にでも祓う。そうすれば被害は最小限。そんな事は分かっている。
けれど
───────カラン
「……丸腰よ。その子を逃して」
「ヒッヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」
自身の道具を捨て、手を上げて投降する。釘﨑は自分でも馬鹿だと思った。
事実として呪霊は子供を人質に取ったまま尚首に爪をたて解放しない。
勝ったと確信し、笑っているのだ。
「……最期に、沙織ちゃんに会いたかったな…」
幼い頃から大好きだった友人の名を
釘﨑は最後にポツリと呟いた
バゴッッ!!!!!
「───────!?」
「あれ、外した?」
「悠仁、だからもうちょっと左だって…!!」
釘﨑が諦めかけた時
コンクリートとの壁を突き破り拳を突き出す手。
今の雰囲気には合わない、言い争うような声が聞こえた。