第8章 雨後※
"術式を使う"
そう言った彼女の言葉に、五条はピクリと反応した。あれ程術式の使用に抵抗を示していた月瑠がなぜ急に。当然と言えば当然の疑問だ。
「術式‥って、それによって虎杖君が生き返るとでも言うんですか!?」
「伊地知うるさい」
理解不能な事ばかりな現状を前に伊地知は疑問符を並べるが、それは即座に五条によって遮断されてしまう。
「悠仁は宿儺と魂を共有している。だからこそ"まだ"死んでいない。恐らく今は生得領域の中。
彼がこれからどうなるかは…まだ未定だけど
そこが"心の中"なら私はそこに触れられる。
今からその中に入って、悠仁を戻す」
「も、戻すって…」
「…悠仁の魂がずっと生得領域の中って訳にはいかないから…。…本当に悠仁が死ぬ前に、無理やり叩き起こすって事」
それ以上は説明するより結果を示したほうが早いとばかりに最後は半ば投げやりな言葉を並べた。
が、……戻す、などと簡単に言ってはいるが
正確に考えればとてもじゃない難題だ。
虎杖悠仁は今、両面宿儺の生得領域の中
つまり、そこにはもちろん宿儺本人が居るわけで。仮に領域内に入ったとして、話し合いで如何こうなる相手では無い事は明白だった。
「…それをしたとして、大丈夫なの?」
「……分からない、けど、今の私が悠仁を生き返らせる方法はこれしか」
「僕が聞いてんのそこじゃないんだけど」
「……?」
「………」
五条の質問意図は、月瑠には上手く汲み取れなかった
「…なんとかするから。私の身体、お願い」
「身体?」
そう言うと、月瑠は未だ目を固く閉じた虎杖の手を掴み自身の手と絡ませ、ぎゅっと握る。ふぅ、と呼吸を一瞬整え
「───────
輪廻操術 ■天」
それは誰もが聞きなれない術式名。
それを発した途端、月瑠は何かの糸がきれたかように意識を手放した。
そんな彼女を、五条は即座に抱きとめる。ただ、手だけは虎杖悠仁と強く握られていた。それはつまり"繋がっている"という事なのだろう。
意識のない月瑠は、眠っているようにも死んでいるようにも見える不思議な感じがした。