第5章 鉄骨娘
「ぅ…っそだろ、何だ今のすげえ」
「…単に呪力を飛ばしただけだよ。誰でもできる」
「まじ?」
月瑠の動きに魅入ってしまった虎杖は真似をするように片手を前に出し力を込めてみる。
…しかしながら、全く、一切なにも起きる事は無かった。
「あれ?…はぁ!!せい!!!」
終いには変な掛け声まで発する始末だ。月瑠の場合は息をするように、ただ手を前に出し呪力の流れを作るだけなのだが、呪力コントロールができない虎杖はそうはいかないらしい。
「…ふふっ、虎杖、変なの。呪力コントロールに慣れれば、きっとできるよ」
「……!」
虎杖があまりにも素っ頓狂な行動をするものだから、月瑠は思わず笑ってしまった。彼女の笑った顔に、思わず虎杖は目を逸らす。
「…なぁ、そういえばずっと気になってたんだけどさ、月瑠って苗字とかないの?釘﨑とか伏黒、みたいな」
「………さあ。苗字ってその家の名を表すものなんでしょ?…私には家とか、家族とか、無いもの。
…忘れた」
虎杖にとっては単純な疑問だったが、もっと考えてから聞くべきだった。
しかし、家族が居ないと言った彼女の言葉は虎杖にとって親近感があるものとなる。虎杖自身、既に家族は居ない。先日亡くなった祖父を最後に自分は一人になったのだから。
「…そっか。悪い。」
「事実を言っただけだから、謝る必要ない。疑問になるのも分かるし」
「…っ月瑠!あのさ、俺の事も苗字じゃなくて、下の名前で呼んでいいから、その、なんか不公平だろ?俺だけ月瑠の事下の名前で呼び捨てにしてんの」
「………私は別に気にしないのに。本当、変なの。
この階はたぶんもう呪霊居ないから、野薔薇の方行こ、"悠仁"」
「…!、了解!」
今は呪いを祓いに来ているのだから変な雑念は捨てるべきだ。
そんな事は百も承知だが、一瞬だけ微笑み前を歩いていく彼女に
虎杖悠仁は少しだけ顔を熱くした。