第5章 鉄骨娘
月瑠の言った"術式が使用できない"は、半分正解だった。
実際問題、彼女は長い間封印されていた件も相成り術式の為の呪力コントロールが上手くできないと感覚的に分かっていた。
呪力と術式では天と地程の差がある。それでも月瑠には術式を使えない…否、"使わない"理由があった。
大きな力には、それなりのリスクや対価がある。それが世の中の常だ。
月瑠は五条悟のように天才な訳ではない。
ただ、不釣り合いな大き過ぎる力があるだけ。
五条の場合、自身の術式を使用した際の負荷は反転術式で補っている。
それは五条悟が『最強』だから為せる事であって
月瑠の場合は自分の反転術式でどうこうできるものではないのだ。
この場で彼に言うには言葉が詰まる。
本来ならば監視対象である為話さなければいけないのだが
月瑠は自身の"対価"を話すことができなかった。
「じゃあ、月瑠は悠仁と野薔薇のバックアップをお願い。月瑠の呪力なら、そこら辺の呪霊は術式無くても対応できるでしょ」
「…了解」
「あー、それから悠仁。宿儺は出しちゃだめだからね。アレを使えばその辺の呪いなんて瞬殺だけど、近くの人間も巻き込まれる」
「分かった」
五条はこの場で深く追求する事をしなかった。
虎杖に注意を1言伝え、あとは頑張ってと送り出す。月瑠自身も今問いただされても答える気はなかったため好都合だが、少しの罪悪感が心に残った。
「はやくしろよ」
野薔薇に急かされ、3人は暗い廃ビルの中へと入っていく。