第2章 開/序
五条が向かった先は仙台市にある和菓子店『喜久水庵』
創業100年にもなる老舗店だ。
「喜久水庵の喜久福は最高なんだよ〜、僕のおすすめはずんだ生クリーム味ね」
そう言って店の中に入っていくと、五条はさっそくレジのおばちゃんに喜久福を注文しまくる。
月瑠もつられて入るが、店内は綺麗に商品が陳列されていて、とても良い匂いがした。
「……そんなに沢山、お土産?」
「いや?僕が帰りの新幹線で食べる用」
店員のおばちゃんに持たされた袋には、最低でも4箱の商品が入っていて、一人で食べ切れるのか月瑠は疑問になる。五条がどれだけ喜久福が好きなのか理解できた。
「ほら、月瑠も食べてみな」
「…!ありがとう‥」
お土産用の箱商品とは違う、個別売りにされていた喜久福をひょいっと投げ渡される。勿論、五条おすすめのずんだ生クリーム味。
月瑠も店に入ったときから気になっていて、自分も食べていいのかと表情が少し明るくなった。
包をあけ、ひとくち頬張る。
瞬間、口の中に広がるやさしい甘みと柔らかな生地の食感。
想像以上に美味しくて、自然と顔が綻ぶ。こんなものが現代にはあるのかと今日一番の衝撃を受けた。
「…そんな表情もあるんだね」
「?」
「いーや、なんでもない。それよりさ、それ美味しいでしょ?」
「‥うん‥!すごく、おいしい」
「でしょー?素直な月瑠ちゃんにはもう一つあげよう」
ポツリと呟いた五条の独り言は月瑠には届かなかった。
けれど、本人は気付いているのか分からないが、無意識ずっと強ばって緊張していた表情が一瞬明るくなった。
五条はそれが少しだけ嬉しかったのだ。