第8章 雨後※
(悠仁、が、しんだ…?)
これまで考えられた最悪の事実に、ヒュッと呼吸の速度が上がる。自身には当てはまらない"死"という現実が、身近な者に実現されてようやく実感してしまう。
自分はあの時何をした。
‥何も、できなかった。自分なら救えた。
月瑠はあの時心の奥底で術式展開のリスクと未使用の際の結果を天秤にかけたのだ。つまり、今を考えれば選択を間違えたとしか言えない。
『呪術師に悔いのない死などない』
夜蛾にいわれた事が頭をよぎった。
「……"まだ"、死んでない」
ポツリと呟いた。
"まだ、虎杖悠仁は死んでいない"
彼が器だからこそ、助けられる可能性がある。
…それに、気になることも。
(………術式)
自分の術式を使えば───────
が、そうすれば対価が発生する。
それが、月瑠をあと一歩で踏みとどませる。
『───────僕を頼るくらいしてみろよ』
「‥‥‥!」
それは五条が言ってくれた言葉。
月瑠が考えていたよりも、五条のあの発言は彼女を救っていた。
「ちょっと君たち、もう始めるけど。そこで見ていくつもりか?」
「!」
聞こえてきた家入の発言。これから虎杖悠仁の体を解剖するのだ。カチャカチャとメスやナイフの音が響いてくる。
「───────待って」
家入のメスが虎杖の肌を掠める直前
少しだけ手を握り、月瑠は1歩踏み出した。