第5章 トリガーの襲来
と、今度はぎょっとした顔を向けられた。
「まさか、お前らそういう関係なのか?!」
何が、と疑問に思ったけれど、すぐに三月くんの言いたい事が分かった。
ああそういえば、くらいの感覚で、私は和泉さんの手を離す。
あまり良い誤解じゃなさそうだったし。
和泉さんも別に気にしていないようで、勘違いしている三月くんを冷めた目で見ていた。
「違いますよ、兄さん。彼女、熱があるのに出かけていたんです。一人ではあまり早く歩けませんので、危ないから私が手を引いて連れて帰ってきただけですよ。兄さんが心配しているような間柄ではありませんから、安心して下さい」
「はぁ?! 熱出てる人間が、冬の夜中に外出るか、普通!」
三月くんにまで駆け寄られて、また額に手を当てられる。
うわ熱っつ! と大袈裟な反応をされては、私としても少々複雑な気持ちになる。
そんなに重症だろうかと思うくらい、自分では自覚が無かったせいか。
急に三月くんに腕を引っ張られて、思わずよろめいた事で、ようやく気づいた。
ああ、確かにこれはあまり良くないらしい、って。
「兄さん、待って下さい。彼女、まだ靴を履いたままなので」
「ん? ああ、悪い。とにかく早く中に入れ、一華」
少し、頭がぼんやりしてきていながらも、とりあえず頷いて運動靴を脱ぐ。
自分が無意識の内に、ヒールではなく履きなれたこちらの靴を選んでいた事に、今更気づいた。
私が靴を脱いですぐ、和泉さんが私の足下を見て呟いた。
「この怪我いつ、できたんですか」
三月くんも私の素足を見て、顔をしかめる。
二人して、私の事を気にかけて、おかしな人達だなと思った。
その気づかいは、出来れば気付かずにいてほしかった。
「これくらい、何ともあらへんから」
放っておいてほしい。
こんなの、ただの引っかき傷だから。
ただの靴擦れとは違う傷口をジロジロ見られたくなくて、壁に手をついて奥へ進む。
余計な心配をされるのが嫌だからじゃない。
自分で拡げた傷について、あれこれ詮索されるのが嫌だったから。
本当に、放っておいてほしいのだ。
すぐに隣に並んでくれた和泉さんが、私に肩を貸そうとしてくれたけれど、私は腕を振りほどいて彼を突き放した。
一人にしてほしい。
しばらく、私を見ないでほしい。
「大丈夫やから。おやすみなさい」
