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get back my life![アイナナ]

第5章 トリガーの襲来


 熱のせいか、はたまた勘付かれるかもしれない事への恐れからか。
 私は思考が上手くまとまらない状態だった。
 出来る限り急いで階段を上りきり、部屋の中へ逃げ込む。
 見られた、私の不恰好な足を。
 初日の晩に、この扉の前で、自分の指で引っ掻いて拡げた傷口。
 普通の人間ならしない、自傷行為の跡。
 危なかった。
 あのまま裾や袖をまくりあげられていたら、きっと見つけられていただろう。
 私の弱い証、無数に並んだ切り傷の跡を。
 冬は厚着するから、つい油断していた。
 隠し通せると思っていた。
 でも考えて見れば簡単に思いつく事だ。
 私はアイドリッシュセブンの七人と、同じ寮で過ごしている。
 自分で自分を傷つけた場所は、この環境では容易に見られてしまうのだ。
 二人には、何と言って誤魔化そうか。
 何と言って取り繕おうか。
 何と言って、嘘をつき通そうか。
(またそうやって、私は私を騙すの?)
(またそうやって、私は私から逃げるの?)
 本当の弱い自分を、誰にも知られないように隠して。
 だけど、弱い自分は確かにここに居て、いつだって仮面の私を剥ぎ取る機会を、影からうかがって来ている。
 だから私は孤立する事を選んで生きてきた。
 変だと思われるかもしれないけれど、私は隠して隠れて、生きてくる事が当たり前だから。
 もっと皆さんに歩み寄る努力を、そんな事を思っていた自分は、きっと甘かった。
 人に近づけば、人の方からも近づかれる。
 近づかれれば、沢山見られる。
 見られれば、勘付かれる。
 勘付かれれば、知られてしまう。
 知られるのは怖い。
 ――怖い。
 どうしよう、どうすれば。
 焦るな、落ち着け。
 私は、私はまだ、ただの一般人だ。
 ガリと、かさぶたを引き剥がす。
 血が出る、少し痛い。
 ああ、私はまだここに居る。
 ここに、居る。
 傷は塞がる、新しいかさぶたで。
 なら私も塞ごう、新しい仮面を作って。
 秘密主義で掴みどころがない人間なんてどうだろう。
 今度は上手く演じて見せる。
 本当の私を見せないために。
 きっと大丈夫、知られなければ大丈夫。
 足元に注意しながら、危ない橋でも渡りきってしまえ。
 その後で橋を壊して、こちら側に来させないようにしてしまおう。
 ――でも、本当にこれで良かったのかな。
 これ以上は考えたくないから、眠ろう。
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