第7章 今日からお世話になります
お風呂に入っただけなのに、とっても疲れてしまって。
理由も分からないままに私は、また着替えの前にうずくまる。
バスタオルを体に巻いただけの姿で、私は立ち眩みのような物を感じていた。
目の前がチカチカ、クラクラする。
立ち上がれない。
自分の荷物が入ったロッカーの前で、ただ辛抱する。
三分くらいもすると、不快感が治まっていた。
早く着替えないと、体が冷えてしまう。
私はふらつく視界が治ると、すぐに着替えに手を伸ばして。
温まったはずの腕に、袖を通した。
着替えの服は、念の為温かい物を選んだけれど。
私の判断は間違っていなかったようだ。
指先のしびれに気づかぬふりをして。
荷物とコートを手に、銭湯から出た。
「あ、いちねえー。早く帰ろうぜー。めっちゃ寒い!」
待っててくれていたのは、環くんだった。
鼻先が少し赤くなっていて、可哀想だ。
「一人で帰れるって言ったのに」
「俺もそう言ったー。でもヤマさんとかみっきーとかいおりんとか、そーちゃんまで。うるせーの。女性を夜一人にしたら、すげぇ良くないんだってー。理がもし同じ状況だったら、俺はどーすんだって、聞かれちゃった。そしたらさ、なんか、俺も確かになーって、思ったんだ。いちねえは理と違って年下じゃねえけど、女の子だもんなーって。だから、俺が迎えに来たんだ。えらい?」
理ちゃんは、環くんの妹さんの事で。
淡々と話してくれた環くんの、その心で私は、なんだか少し温かくなったみたいだ。
最後の一言が環くんらしくて、癒される。
「うん、ありがとう。環くんはとっても偉いし、優しいね」
私が自然と笑いかけると、環くんは嬉しそうに、へへっと笑い返してくれた。
そのまま、二人で暗い道を歩く。
環くんは、率先して車道側を歩いてくれた。
私は、そんな環くんの優しさにすごく助けられて。
あんなに疲れて立ち眩みまでして、しんどかったのに。
もう、全く辛くなかった。
私は、環くんにも支えられている。
それが、すごくすごく嬉しくて、温かくて、ちょっぴり恥ずかしくて。
でも、嫌な思いは全然無かった。
私が環くんにふれて良いのなら、迷わず頭を撫でてあげていた。
まあ、私は背丈が平均より少し足りないし、環くんは標準より大きいから。
きっと、簡単には手が届きはしないのだろうけど。
