第5章 トリガーの襲来
吊り上がりまくった和泉さんの目に見下されながら、こくこくと小刻みに何度も精一杯、首を縦に振る。
と、和泉さんは急に私の手を引いて、寮までの道を歩き始めた。
どうやら怒りは収まっていなくとも、このまま外で叱責するよりも、私をさっさと寮へ帰す事を優先させたようだ。
握られた手の力が優しくなくて、和泉さんのこらえた気持ちが込められている。
それから無言になったのも、効果的に私を追いつめていた。
たぶんきっとこれはかなり、和泉さんをキレさせてしまったらしい。
寮の中に入ったら間違いなくお説教長時間コース突入だな。
うん、終わった。
私は、どうせこっぴどく怒られるのだからと、むしろ開き直った。
もうどうにでもなれ、と。
和泉さんを怒らせたのは私の不注意なのだし、和泉さんのご機嫌のとり方なんて知らないし?
どうせ叱られるのなら、今更怯えたって何にもならないなと思って。
怖くないって言ったら嘘になるけれど、叱られたくないというのとは、気持ちがちょっと違う。
だって、和泉さんが怒ってるのはきっと。
私を、心配してくれたから。
その心が、嬉しかった。
逃げも隠れも抵抗もせず、和泉さんの手に引かれるまま、夜の道を歩く。
寒い冬の冷たい空気の中で、確かに和泉さんの温かさを感じていた。
寮の中へ入ると、玄関口には三月くんが立っていた。
「おかえり。良かった! 一華すぐ見つかったんだな!」
玄関口とリビングに灯りがついている。
借りたジャンパーを肩から外すと、三月くんが受け取ってくれた。
「ただいま戻りました。あの、上着お借りしてしまって、すみません。こっそり出てきたつもりだったんですけど、気づかない内にお二人を起こしてしまったのですよね、ごめんなさい」
私は、その場ですぐに二人に頭を下げた。
どういう経緯で外出に気づかれたのかは分からないけれど、ご迷惑をかけてしまったのだろう事は想像にたやすい。
橙のジャンパーは、たぶん三月くんの物だったのだろう。
「ちゃんと帰ってきたから、俺は別に良いけどさ。こんな夜中に出かけるなんて、何か用事でもあったのか? 一織、すっげえ怖い顔して追いかけて行ったから、ただ事じゃないとは思ったけどな」
三月くんの目線が、何気なくすっと下に降りて、私達の手元で止まる。