第5章 トリガーの襲来
だから、もっと、早く、皆さんのお役に立たないと。
私は、よし、と小さく拳を握って。
そのままくるりと踵を返す。
「何がよし、なんですか全く」
誰も居ないはずのそこから、呆れた声がして。
私は突然の事に、思い切り肩をびくんとさせた。
振り向いた先に立っているのは、なぜか黒いコートをパジャマの上に羽織り、左腕に橙色のジャンパーを持った和泉さん。
急に声かけられたから、心臓、止まるかと思ったやん。
和泉さんの息は少し上がっているようで、両肩が呼吸に合わせて小さく上下している。
・・・何となく怒られそうな気配がするので、目線を横に反らしながら話す。
「あ、あれー? こんな夜中に、お散歩ですか? 奇遇ですねぇ、実は私、ちょっと出掛けてたんですけど今から帰ろうと思ってて・・・あ、和泉さんは何かご用事ですか? お邪魔するのもアレなんで、私はこれで失礼し・・・」
「まさか逃げられるだなんて思ってませんよね?」
失礼しますね、と言ってそのまま和泉さんから離れようとしていた私に、グサグサと刺さる和泉さんからの容赦ない視線。
目は合わせていないのに、なぜかとてつもない恐ろしさが伝わった。
外の冷気以上に冷え冷えとした和泉さんの眼光が予想できる。
ああ終わったな。
と確信して、私は諦めの溜め息を軽くつきながら、横を向いていた顔を正面に戻した。
恐る恐る和泉さんと目を合わせると、彼は左手に持っていたジャンパーを私の肩にかける。
そのまま私の額を触られて、不意に近づいた距離に、らしくなく心音が跳ねた。
「やっぱりまだ熱が下がってないじゃないですか。こんな寒い日に体調が悪いまま一人で外に出るなんて、自殺行為ですよ。何か良からぬ事を考えてた訳じゃないでしょうね?」
ギロリと睨まれながら、私は肩を縮こませて胸の前で両手を組んだ。
さすがに、体調崩したくらいであの世へ行こうとは思ってない。
メラメラと静かに怒りの炎を燃やす和泉さんから、何とか目を反らさないように気を張って、私は首を横に振った。
「目が覚めちゃったから、ちょっと星を見ようと思って、少し散歩してただけです! あんまり遠くへ行かないように、すぐ帰るつもりでしたから!」
「・・・・・・本当に、すぐ帰ってくる気だったんですね?」