第5章 トリガーの襲来
薬が効いて眠ってしまったとはいえ、体の熱が簡単に下がる訳もなく。
私は真夜中になって、一度喉の渇きを覚えて目が覚めた。
気だるい体を越して部屋を出て、階段を降りて一階のリビングまで歩いてくる。
飲み物を探すのも面倒で、紙コップを取り出すとそのまま水道水を注いだ。
コップ一杯の水を飲み干し、深く熱い息を吐き出す。
和泉さんにお世話になったにも関わらず、寒気は無くなっても、熱は下がっているような気配が無い。
どうすれば一晩で体調が良くなるだろうかと考えてみるけれど、やはり思考は上手く回ってくれなかった。
親元を離れ、一人暮らしをするようになってから、勿論体調を崩してしまう事もあった。
仕事を休むのも申し訳なくて、市販薬を飲んで熱冷ましシートを額に貼って、出勤してた事だってある。
あの時は工場へ行っても、なぜか上司の人から休暇を取らされて、二日程度仕事を開けるハメになってしまった。
でも当時は働き始めて半年経ってからの事だったから、休み明けからすぐに仕事に戻って、工場の人のご迷惑にならないように、頑張って休んだ分も働いた。
だけど。
今回は違う、私は面接の日も合わせても、まだ三日しか出勤してない。
仕事は初めての事ばかりでまだ慣れていないし、事務所までの道のりすら覚えられてない。
ただでさえ、まだ新人だからと言われて割り振られる仕事が少ないのに、こんな時に休んでしまったら。
せっかく覚えた事が、あっさり頭から抜けてしまいそうで。
いざとなれば、元気なように振る舞って、無理にでも出勤してやろうと思っているけれど。
全員を騙し通せるのか、少し自信がないのも確かな事だった。
明日の事を考えると、なんだか不安で眠れそうになくて。
どうせ寝付けないのなら、少し外を散歩しようと、私は玄関へ向かった。
靴を履いて後ろを振り返る。
寮の中は静かで、誰も起きてないと確信した。
誰かに見つかる前に夜風に当たろうと、私はためらいもせずに玄関のドアから出て行った。